離人しぎみで書いてます。
男は大きな河になれ←歌詞
(1991年)
ジャケットをそのまま書きます
映画「
次郎物語」の音楽を、と言われた時、
実際、さて、と困ってしまった。
プロデューサーの荒木さんには、映画「関白宣言」以来、
可愛がっていただいているし、監督が「飛べイカロスの翼」の時
お世話になった森川時久さんで、よけいに困ってしまった。
そうでなければ、どうにかお断りするほうが楽だった。
とにかく忙しい最中であったこと、それから
「次郎物語」というテーマの両方に悩んでしまったからだ。
「次郎物語」は何度も映画化されているし、
TVでも連続ドラマでもやった名作である。
このすさんだ子供達や、苦しむ教育現場という現代に、
確かに必要なテーマであるという事や、期待もよく解る。
それだけに、プレッシャーも大きい事になる。
そこからのスタートだった。
スメタナの交響詩「
モルダウ」を映画全編のテーマとして
用いるアイデアは、台本を読まずに決めた。
理由としては、物語の時代背景が、昭和初期の、
世相的には暗い方へ向かう、“苦悩”の
イントロダクションにあたること。
物語が文字通り大河ドラマであり、
少年が様々な辛苦を越えて男として成長するという
ものであること。
次郎の父親役の加藤剛さんが、屋根の上で語るように
唄う唄、これは物語の中でも、次郎と父との心のふれ合う、
最も重要な場面であり、脚本では「青葉繁れる…」の
“
桜井の別れ”を想定して書かれていた。
処が、この唄を新曲で、という意見が出て
僕が初め不必要だと思っていた”主題歌”が
必要になったのだ。
とはいうものの、全体のテーマ曲に「モルダウ」を
選んでしまった僕に、スメタナ級のメロディを
新しく書くなど、勿論不可能だった。
僕ごときが、どれ程がんばろうが、土台、
「モルダウ」のような名曲に及ぶべくもない。
それでも、新曲を、という要望にお答えすべく、
約一ヶ月の苦悩のあげく「モルダウ」以上に相応しく
すばらしいものは無いと分かった。
屋根の上で父が子に唄う唄は、懐かしくて、
強くて、優しいものでなければならなかった。
名曲に自分の詞をつけるという不遜は承知で、
僕は、父が子に語る、
“男という大河”“女という海”を精一杯唄おうとした。
物語の背景上、メロディも、日本的に変えてしまったので、
スメタナのこの曲を大切に愛しておられる方にとっては、
まことに腹立たしいことであったろうという事は、
僕もこの曲を愛している一人として、良く理解出来ているが、
何卒、以上の理由をもって、お許しを乞う次第である。
(ジャケット、さだまさし 原文まま)